意見を述べる前提として、徹底的に考えることが必要

顧客とコンサルタント、コンサルタントの中で上位者と下位者。
この間には経験面での大きな隔たりが有るので、相当に考えて対峙しないとコンサルタントは顧客に敵わないし、下位者は上位者に敵わない。

社内会議の際に、私が顧客数向上に向けた方向性案を示している途中でアナリストが私の発言を遮り、「顧客数は現状を維持すべきで、単価向上によって売上拡大を実現すべき」という主張をして来た。

この発言自体は良いのだが、今回に関して言えば、

  • 中間報告までに、定量的なアプローチに基づき「単価ではなく顧客数向上が課題」ということが明確に示されていること
  • 「顧客数は現状を維持すべき」という主張が「来店客が『空いているのが良い』と言っているから」ということだけが根拠であったこと
  • 「単価向上にはどのようなアプローチが考えられるのか」と聞いた際に「そこまでは考えていない」という回答だったこと

という3点に問題が有ると感じた。

特に最初に挙げた点が問題となる。
中間報告で示したからと言って絶対のものではない。その後の調査でそれを覆すに値する情報が上がってくれば「やっぱり考え方を変えます」と伝えれば良いだけ。
たまに「一度自分達で言ったことを否定する」と鬼の首を取ったかのように糾弾して来る人も居るが、変えるべきものは変えることが必要。

しかし、(特に定量的に)一度示された結論を否定するには、それなりの理由が必要になる。
これは、自分達が示した結論である場合には勿論だし、顧客の中で結論に達してしまっていることに対しても同様。

特に今回は、事業の特性から単価の引き上げはかなり難しいし、上がって来た単価に関する集計結果を見た時に私は直感的に「思ったよりも単価は取れていて、単価向上は余地は有るがかなり限定的」という印象を持った。
一方で、顧客数については課題であることが露骨に表れていた。

定量的に導かれた結論と、それなりに経験が有る人が持つ感覚的な結論が一致している場合には、その結論は「かなりの確率で」正しい。とは言え、視点を変えると見え方が全く変わる場合も有るし、そこを突くことができれば、コンサルタントとして非常に大きな価値が出せる。
そのような結論を否定するのであれば、その根拠だけでなく「このように考えると別の道が見えて来る」という具体的なイメージを示さないと厳しいと思う。

若手の場合、根拠についても代替案についても、完璧なものを出すことは難しいと思う。
(一部の優秀な若手については完璧なものを出して来るのだが、完璧なものを出して来た後は基本的にその人主導で考えをまとめる形にするので、少なくとも私の案件の中で同じ人でそれが二度起こることは無い)

重要なのは、「見落としていた/切り捨てていたけど、考えるに値する」と感じる一手を示すこと。

将棋で言えば、「こういう手も有るんではないですか?」と提案して来ても、その人の考えているその後の駒の進め方だと実は有効ではない。「こう返されたら?」という問いに詰まる。
しかし、その後の組み立て方を変えるとその手が活きる。そういう手は有る。

コンサルタントとしての経験が増すに連れ、顧客が気付かないこのような一手を感覚的に見つけだす能力が高まって来る。
一方で、コンサルタント自身も経験を増すと、自分の中で固定観念/定石が出来上がって来て、感覚的に切り捨ててしまう「有効な一手」が生じる。

これを拾い上げるのが若手の一つ価値だと思う。

これを行うためには、とにかく色々な手を考えるしかないと思う。とにかく駒を進めて考えてみる。
そうすると、意外と局面が拓けたりする。

コンサルタントになって最初に得るべき感覚は「ここまで細かく考える」という点についてだと思う。想像している以上に細かく考えることが求められる。

勘違いしている人も居るが、コンサルの思考は抽象→具体、大局→局所という一方的な流れにはならない。どちらを起点にするのかは個人の思考の癖などによって変わるが、いずれにせよ、しっかりとした考えとしてまとまるまでの間に、抽象/大局と具体/局所の間を行き来する。

その中で、基本的にアソシエイトまでは「顕微」が求められる。とにかく細かく見て考える。具体的に考える。
マネジャーが視野に入った時点から一気に目を置く位置を遠くに離し「俯瞰」する、抽象的に考えることが必要となるのだが、これは「顕微」が出来た上で行う必要が有る。
アソシエイトの少なくとも前半までは、とにかく「顕微」。

若手の中で、抽象的に、何となく「尤もらしいこと」を言う人が多い。これは時代に関わらずだと思うし、自分自身も最初はそうだったと思う。
しかし、これが続くと「コンサルごっこ」になってしまう(私は、この点を非常に危惧して最初のファームを辞めた)。
何となく尤もらしいことを、何となくコンサルっぽい感じのスライドにまとめて、何となくプロっぽく喋る。思考→資料作成→プレゼンという流れだと、後ろに行くほどスキルが高くなる。
しかし、100を考えて抽象化/凝縮した1のアウトプットと、1しか考えずに出した1のアウトプットは、重みですぐに違いに気付く。

コンサルを続けていれば、最後は顧客と対峙することになる。
顧客の固定観点を否定し、新しい視点/思考方法を埋め込むことが必要となる。そうでなければ価値を出せない。
そのために、パートナー/マネジャーは徹底的に考える。

これと同じ構造が上位者と下位者の間に存在する。
言うなれば、若手が上位者に対して接するのは、後に顧客と対峙するための訓練。
パートナー/マネジャーに対して意見を言うために、アソシエイト/アナリストは徹底的に考える。

早い段階で薄っぺらい仕事の仕方を叩き直し、徹底的に考えるという癖を付ける。
こういった意識が若手側には必要だし、上位者はこのような癖付けのための指導が必要だと感じる。

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