スライドを「使い回す」ということについて

コンサルタントの仕事の中で「スライド」の位置付けは大きい。
基本的に成果物としてスライドが用いられることに加えて、コンサルタントの価値の源泉である「思考」に対しても、スライドが大きく影響する。

スライドについては、「使い回す」、ある案件で使った資料を他社案件でも用いる、汎用的なスライドを用意する。
これらを積極的に行うのか否か。ここは議論が分かれるところだと思う。

私の考え方、仕事のスタンスとしては、スライドの使い回しはしない。これは明確にしている。
一方で、極力使い回しをすべき、と主張する人も居る。社内でも両方の考え方が混在している。

私個人は、最初のファームでは「なるべく過去の成果物を使え」、「成果物は他に使い回しし易いように作れ」ということを徹底して言われた。使い回しし易いスライドを作るための秘訣を学ぶような研修も入社間も無い頃に受けた。

使い回しのメリットも理解している。
まず何よりも効率が上がるし、品質も担保し易い。

しかし、本来的な「コンサルタント」としての価値を追求するのであれば、使い回しはすべきでないと思っている。
特に、アソシエイト中盤からマネジャーにかけては、「使い回ししない」を大原則として仕事に臨んだ方が良い。

「積極的に使い回す」という意識で仕事をしている限り、コンサルタントとしての戦闘力は高まらないと思っている。

スライドで表現すべきことは、今向き合っている会社に対して、何を言うべきなのか、ということ。
抽象的・一般的な事項であっても、今向き合っている会社にとって必要な視点からそのことを砕き、スライドに落とすことが必要になる。

コンサル業界も「生産性」が問われるようになり、その観点から考えると、スライドの使い回しは理にかなっている。

しかし、スライドの使い回しが頭に浮かんだ瞬間に、思考は大きく制約を受ける。非常に狭められるし、スライドに引っ張られてしまう。
重要なのは「顧客にとって何がベストなのか」ということ。生産性を重視するために顧客に対する提言が歪められるのは間違っている。

そもそも、言いたいことをしっかりと洗練させるということを重視した時に、スライド作成に割く時間などはたかが知れている。
生産性の観点からスライドの使い回しを意識しているのだとすると、そもそもの力点の置き方を間違っているのだと思う。「スライド作成」という価値の無いものが幅を取り過ぎている。

テキストエディタを開いて、とにかくギリギリまで「言うべきこと」について唸る。脳味噌が捻じれる位まで考える。メッセージと、その表現を研ぎ澄ます。
これがコンサルタントの仕事の核となる部分。

その後は単なる「作業」。結果として、以前に作ったスライドがそのまま使えるのであれば使えば良いが、その際にも言葉は見直す。
この顧客に対して、その言葉の置き方で本当に良いのか。

しかし、メッセージと、その表現を研ぎ澄ませた時、過去のスライドの使い回しに気持ち悪さを感じることが多くなると思う。

「だいたい合っているけど、何かしっくりこない」

このような感覚を覚える。

一般解ではなく固有解を示すのだから、当然このようなことが生じるはず。
認識と表現のずれ。これを無くすためには、認識に沿ってスライドを作るしかない。

マネジャー後半位からは、使い回しを積極的に行うという考え方も取り得ると思う。それは志向の違いなので否定できない。

しかし、「考える」という能力を磨くべき過程で使い回しが癖付いていると、その能力向上には限界が有ると感じる。

個人的には、若手のうちは使い回しの癖は絶対に付けるな、と言いたい。

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