コンサルタント向け推奨書籍(2. 専門知識編)

先日、スタッフ向け推奨書籍の中で基本的な意識・スキルに関するものをまとめたが、今回は戦略や組織等の各専門分野について学ぶ上での「教科書」的な書籍について。

各分野で様々な本が存在し、良い本も勿論多い。正直、好き嫌いの問題も多いので、別にどれを読んでも構わないと思う。私も各分野でかなりの本を読んだが、「教科書」については良い本であれば「それだけ読めば良い」というもの。
その点で、私なりに読み漁った結果、最終的に残った本を取り上げる。

前提として、戦略や組織については戦略コンサルタントとしては「専門領域」になるわけで、ここはかなりしっかりと学ぶことが必要。
一方で財務、会計、人事、法務といったことは、それぞれ専門家が別に居る。そのため、必要なレベルは「専門家と話ができること」になる。

例えば人事制度についての見直しを行った際、最後は社労士の確認を取った方が良い。(労働法関連にそれなりの自信が有れば別だが)
しかしその際に「この制度で良いですか」という確認の取り方では不十分で、確認すべきポイントを絞り込むこと。例えば「制度変更時、これらの手当の扱い見直しが不利益変更に該当するのか」といった形で。

下記の本は、そのようなレベルになることが主眼。

2.1. 戦略策定

2.1.1. 戦略策定概論

戦略については「戦略の中身(戦略論)」についての本と「戦略の立て方(策定手法)」についての本に大別できるが、まずは後者から。

私はコンサルになった頃、徹底的にこの本を読み学んだ。

「戦略の立て方」と言うか「考え方」は、戦略系のファームでもあまり体系立てて教えるということはしないと思う。それは、若手の役割はその前提の調査・分析であることが大きいと思う。

また、戦略策定については、それが必要なポジションについたら習得する、と言うより、「習得できたものがそのポジションに就く」というようなもののように感じる。

プロジェクトを通じて垣間見ることはできるが、パートナー/マネジャーの頭の中で組み上がってしまっているケースも多いのではないかと思う。その組み立てのプロセスが見えない。

どのような頭の回し方をしているのか。実際にはかなり感覚なのだが、その感覚ができるまではこの本に書かれているような段階を踏んでいると思うので、それを学ぶ上で有効。

2.1.2. 戦略立案のテクニック

※私が読んだ(20年前)のは旧版なので少し内容が変わっている可能性が有る

「戦略策定概論」よりも少しテクニカルな内容が多い。

実際にコンサルタントとして仕事を進める上で知っておいた方が良い内容がまとめられている。一つ一つの内容は浅いので、詳しいことを知りたければ別の本を参照した方が良いが、コンサルタントになって「まず知っておくべき」という点ではこのレベルで良いかと。

2.2. 戦略論

2.2.1.  ストーリーとしての競争戦略

理論を踏まえ、具体例に照らした時に「どのように戦略を解釈するのか」が非常に分かり易く書かれた本。

実際には、既に存在する戦略を「解釈する」ということと、そのような戦略を「策定する」のは非常に大きな乖離が有る。プロジェクトで言えば、前者は競合分析、後者がそれらを踏まえた実際の戦略策定。あくまでも前者は分析。

とは言え、先に「解釈する」ことができるようになることが必要。

この本は必読。

2.2.2. わかりやすいマーケティング戦略

マーケティング側に寄っているが、具体的な戦略の考え方、という点ではこれが私の読んだ中で最もイメージし易いのではないかと思う。

但し、事例が少し古いので、若い方だとひょっとしたらイメージし辛いかも知れない・・・とは思う。

しかし、読んで損は無いと思う。

2.2.3. 経営戦略概論

第Ⅰ部で、戦略論の研究の流れと、過去の有力な学説の簡単な内容およびその背景がまとめて書かれているのだが、戦略論を学ぶ前にここの部分は読んでおいた方が良いと思う。

各戦略論の違いが簡潔に説明されているので、頭を整理した上で各戦略論に進むことができ、理解度が格段に高まる。

恐らく、コンサルタントになってすぐにポーターなどを読んでもあまり意味無いと思っている(読むこと自体は良いが)。まずはこの本だけ読み、幾つか案件を終えてから各戦略論に移れば良いと思う。

他、下記記事をご参照を。

(参考)「書籍録『経営戦略概論』」

2.2.4. 日本の競争戦略

ポーターによる日本企業の分析。これは示唆がかなり多い。

何よりも、この本の出版が20世紀にも関わらず、21世紀に入り20年が経過した現在でもこの状況(発想)から抜け切れていないことに、今読むと更に危機感を覚えると思う。

2.2.5. イノベーションのジレンマ

言わずと知れた超定番本だが、これは絶対に読んでおくこと。

時代に関わらず有効。むしろ、今の時代の方が以前よりも、ここに書かれたことの重要性は高まっていると感じる。

2.2.6. 各種ケーススタディ本

別に読む本は何でも良いが、戦略についての解説がされたケーススタディ本は色々と目を通すと良いと思う。

前述の通り、「解釈」の能力を高めることが先決。企業を見て「この会社はどのように闘っている」ということを説明できるようになる。その目を養うのがケーススタディ。

解釈は所詮後付けなので、当初からその意図を持っていたのかは別だが、戦略を考える能力を高めるためにも、この「解釈」のストックは必要。

2.3. 組織・人材管理

2.3.1. 組織設計概論

「戦略策定概論」とセットで読んでおいた方が良い。

戦略と組織はセットで語られるべき。そのため、戦略コンサルタントにとってその両者は必須科目。

組織については、組織制度設計というハード(形式)的な要素と、組織をどのように動かすのかというソフト的な要素が有るが、前者については私は、この本以外に読んだ記憶が無い。

ガバナンスといった議論になれば別の本が必要だが、取り敢えずこの一冊で良いのではないかと思う。

 2.3.2. 組織行動のマネジメント

「組織をどのように運営するのか」という観点で、この本以上のものは無いのではないかと思う位に非常に良くまとまっている。

組織について考える能力を高めるには、如何に多くの臨床経験を積むのか、にかかっていると思っている。しかし、ただ経験を積んだだけでも見えてこない。この本に書かれている理論をフィルターにして臨床経験を見る。そうすると、漠然と眺めていても見えないことが見えるようになる。

案件を進める中で「組織に課題が有る」と感じた(もしくは話題になった)時にこの本を読み返すと良い。

2.3.3. 人事管理入門

これは企業経営に関わる人材管理(HRM)について全体像がそれなりにしっかりと分かる本。戦略コンサルタントとしては、取り敢えずこのレベルで理解していれば良いと思う。

実際に制度設計などに入るとこれでは全く足りないが、その際には各領域の専門書を読むこと。

※新版が出版されたらしいので、リンク差し替え(2020年6月13日追記)

2.4. 会計・財務

2.4.1. 財務3表一体理解法

会計は分かってしまえば非常に綺麗で簡単なのだが、取っつき辛いと感じる人も少なくないと思う。そのような人は最初にこの本を読むと良い。全体観が分かる。

なお、早い段階で簿記2級は取っておいた方が良い。これは学生でも少し勉強すれば受かる。複式簿記の基本をしっかりと頭に植え付けると、財務諸表を読んだ際などに非常に楽。これほど(コンサルにとって)投資対効果の高い資格は無いと感じる。

私はコンサル2年目に1週間集中的に勉強して受かったので、その程度のもの。ちなみに、簿記は3級だと原価計算が入っていないのでコンサルとしては不十分。逆に、3級と2級の違いは原価計算の有無が大きい位で、正直大した難易度の差とは思えないので、いきなり2級で良い。

2.4.2. 財務会計講義

「財務3表一体理解法」からのギャップは大きいので、間に何か適当な入門書を入れた方が良いかも知れないが、簿記2級を取れば次はこの本で良いと思う。

細かな点まで覚える必要は無いが、この程度までは勉強しておいた方が良いと思う。慣れないうちは少し難しく感じるかも知れないが、それは慣れた方が良い。

2.4.3. 戦略管理会計

戦略コンサルタントにとっては財務会計よりも管理会計の方が圧倒的に必要性が大きいが、その点で読んでおくと良いのがこの辺。

企業経営における管理会計の位置付け、意味合いといったようなものをしっかりと掴んでおくことが重要。

下記の本でも良い。(両方読んでも損は無い)

2.4.4. 原価・管理会計入門

管理会計自体は、その考え方は上記で学べるのだが、具体的に設計しようとすると配賦と原価計算が必ず議論になる。これらの具体的なスキルを得ようとするなら、圧倒的にこの本だと思う。

この分野は、しっかりと理解できる本は分厚いし、薄い本だと不十分ということが多い。入門書だと説明が偏っているケースも多い。

この本は薄いが、原価計算、管理会計について知っておくべき内容が網羅されていると思う。戦略コンサルタントとしてはこれで十分。

2.4.5. 道具としてのファイナンス(2020.6.13追記)

ファイナンスに関する知識の中で、特に「手を動かす」必要が有る部分について抜き出し、実践的な説明がされている本。

ファイナンスの基本知識に加えて、理論をExcelベースの実務に落とすとどのようになるのか。これを具体的な例示によって説明されているので、一度しっかりと自分でExcelを広げてやってみると良い。

2.4.6. コーポレートファイナンス 戦略と実践

財務領域については、最初はこの本だと思う。

私は著者の一人の保田隆明氏が以前書かれた「企業ファイナンス入門講座」を以前に読んでいたが、最近この本を読み返したが、こちらの方が随分と良い。

非常に分かり易い一方で、変に細かく入り過ぎないのでお勧め。

2.4.7. コーポレートファイナンス実践講座

「コーポレートファイナンス 理論と実践」は、財務領域の全体観が分かる本。一方でこちらは、特に調達などについてより実践的な理解ができる本という感じ。

まずは前述の本だけで良いが、余裕が出来たらこちらも読むことをお勧めする。

2.5. 法務

2.5.1. キヨミズ准教授の法学入門

大学時代に法律をしっかりと勉強したような人には勿論、全く不必要なものだが、私のように法律とは無縁という人は、取り敢えずこの辺から読み始めた方が良いと思う。「法律に興味を持つ」ために非常に良い。

コンサルに求められる知識の中で私が最も苦手にしていたのが法律。しかし、さすがにまずいと思い、しっかりと学習する際にまず勧められたのがこの本。

2.5.2. プレップ法学を学ぶ前に

「キヨミズ准教授の法学入門」はまずは「興味を持つ」という位置づけだが、それだけだと法律を学び始めて躓くと思う。法律は「読み方」、「考え方」のようなものが独特だと感じる。それを埋めるための本。

多分、2冊セットで読めば、法律を学ぶ上での準備は仕上がると感じる。

2.5.3. ここだけ押さえる!会社法のきほん

コンサルタントにとって特に重点的に学ぶべき法律は会社法と労働法(特に労働基準法)。まずは会社法。

いきなりしっかりとした本を読んでもイメージできないと思うので、まずはザックリ理解する、という点でこの本。私はこの本は、顧客に「会社法とは」を簡単に説明できるようにするための参考として読んだ。

2.5.4. LEGAL QUEST 会社法

会社法についてはこのレベルまで理解できれば十分。これ以上必要になったら必ず弁護士を交えること。

この本はしっかりと法律についての説明が初心者でも分かるレベルでされている上に、事例なども交えてイメージがし易いようになっている。

なお、コンサルタントとして特に会社法で学んでおくべきなのは「機関」について。経営者との会話の中で当たり前のように出て来るが、しっかりと学んでおかないと理解すらできないと思う。

なお、私が読んでいたのが第3版だったので、第4版を読み直そうと思う。会計も法律もどんどん変わるので、新しいものが出たら必ず読み直すことも不可欠。

2.5.5. プレップ労働法

労働法についての入門は圧倒的にこの本。取り敢えず戦略コンサルタントになったらこの本のレベルはマスターすること。人の問題に触れる際、絶対不可欠。

逆に、制度設計などに踏み込まないのであれば、この本のレベルで十分だと思う。

非常に読み易く、量もそれ程多くないので、簡単に読み終えることが出来る。しかも、これだけ頭に入っていれば、恥ずかしい思いをすることはないはず。

2.5.6. LEGAL QUEST 労働法

労働法もこのシリーズ。

私はこれも第3版を読んだが、労働基準法について直近での改正(いわゆる働き方改革に関するもの)が非常に大きいので、新しい方を読むこと。

なお、労働法については条文自体は当然重要で頭に入れておかなければいかないのだが、それと同等に重要なのは判例。実際に制度などをいじる際には、重要な判例は頭に入っていないと危ない。

とは言え、この辺も社労士なり専門のコンサルに任せた方が良い。
あくまでも基本知識としてこの本程度は。

取り敢えずこの辺で。

追ってまた追加します。

1件のコメント

  1. 来春からコンサルとして働くものですが、参考にさせていただきます。ありがとうございます。

    リーガルクエスト会社法について、4版をお読みになるご予定とのことですが、補遺出ておりますのでお気をつけ下さい。最新の法改正に対応するものです。(ご存知でしたら申し訳ありません。)

    http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/17935_supplement.pdf

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