タテマエで飾られたファームで生きる上で注意すべきこと

コンサルティングファームは、過去20年位でかなり変質したと思う。
賛否両論有るが、いわゆる「普通の会社」に向けて変化を続けて来ている。

しかし、今のファームは、「プロフェッショナルファーム」と「一般的な事業会社」の過渡期に居て、「ホンネとタテマエ」を理解して過ごさないと危険な状態にあると感じている。

ファーム運営は、基本的に「タテマエ」に基づいて動いている。しかし、ふとした瞬間に「ホンネ」が顔を出すことが有る。
端的に出て来るのが評価に関する話。評価会議なども基本的には「タテマエ」で会話がされるが、特に評価が低いスタッフについての話になっている際に、普段は温和な「タテマエ」の表情しか見せないパートナーから、辛辣な「ホンネ」が発せられたりする。

どの組織でも「ホンネとタテマエ」は存在すると思う。
それ自体は、組織を運営する上で必要なものなので問題無いのだが、コンサルファームにおいては幾つかの点で、「タテマエ」を真に受けると危険なことが有ると思っている。

プロフェッショナルファームと他の事業会社の決定的な違いは、キャリアパスが単線であることだと思う。
メーカーであれば、開発に向いていなくても生産や営業、管理など、様々な職種が有る。基本的に、どこかしらに適性を見出せると思う。
しかし、コンサルファームであれば、コンサルタントとして向いていないのであれば生きる道が無くなる。

これにより、早い段階でコンサルタントとしての適性の見極めが必要だと思う。
35歳を過ぎてから「コンサルタントに適性が無い」ということに気付いたものの手遅れになっている、ということを、実際に目にすることが有る。
自分自身で適性を見極め、他の方が望ましいと考えるのであれば、早い段階で道を変える。

最近のファーム運営では、この点を直視していない。
基本的に「誰でも努力次第でコンサルタントとしてやって行くことができる」というタテマエを取っている。
これは、近年は売り上げを拡大するために「頭数を確保する」ということがファーム運営において非常に重視されており、そのため、スタッフを「上手く使う(あしらう)」ことが要求されているため。

現実を伝えることで、自分自身と向き合い、将来について考える。これをされることを避けることが必要になっている。コンサルタントとして将来厳しいと感じる人でも、取り敢えず居てもらう必要が有る。

しかし現実として、まともなパートナーレベルで「誰でもやって行ける」などと思っている人は居ないと思う。ホンネ。

本人のためには、早い段階で見極めることが必要。
「Up or Out」という言葉が象徴する通り、以前は時間軸を区切って成長の見極めをする風潮が強かったと思う。
個人的に「Up or Out」を字面だけ捉えて運用することには反対なのだが、一方で、どこかのタイミングで「このファームで将来を描くことは厳しい」ということをしっかりと伝える必要が有ると思う。

そして、この点に絡んで、「評価」においても「タテマエ」が蔓延っていると感じる。

評価は昇進や報酬を決めるという性質も有るが、それ以上に本人の育成のために不可欠なものだと考えている。
評価においては、本人の強み・弱み、特に課題点についてしっかりとピンポイントで示すことが必要だと思う。健全なファームでは、これをしっかりと伝えているはず。それを基に本人が何をすべきなのか考える。

しかし、少なくとも私の周囲で見ている限り、「厳しい指摘」は避ける傾向が強くなっている。評価が「タテマエ」で語られている。
評価の書き方は、かなり「お作法」が有ると感じている。伝えなくてはいけないことを、しっかりと伝えていない。

評価会議での会話の中では、「決定的に足りないこと」が端的に示される。「〇〇さんはこれが解決できなければ次のステップは無い」というようなこと。
これを明確に把握しているものの、本人には伝えたとしてもかなり柔らかくして伝える。「基本的に問題無いけど、これが出来ると更に良いね」程度の色合いに弱まる。
そして、「最終通告」のような状態になって初めて、「ホンネ」が顔を出す。

他のファームの現状がどうかは分からないが、少なくともうちのファームに関しては、若手が「タテマエ」を真に受けてしまっていることが危ないと感じる。

コンサルタントという世界は、やはり厳しいものだと思う。
弁護士や会計士のような裏付けとなる資格が有るわけでもなく、無形のものを、しかもかなりの高価格で提供する。
「誰でも出来る」というような甘いものではないし、むしろ、ずっと務まる人の方が稀で「異常」なのかも知れないとも感じる。

「時代が変わった」とは言われるが、これらの根本の部分は変わっていないと思う。

昔はこのような現実を若手時代から徹底的に言われ続けて来た。それにより、どこかのタイミングで「覚悟を決める」ということが問われたと思う。
しかし、「タテマエ」によって飾られたファームにおいては、このような覚悟を問われることなく、何となく若手時代を搾取される。

このような状況なので、スタッフは「自分を守る」ということを徹底的に意識することが必要だと思う。

何よりも、会社と個人は独立した関係。絶対に依存しては駄目。
子供に「知らない人に付いて行っちゃだめ」と言うのと同じように、若手には「会社や上司を信じて付いて行っちゃだめ」と言いたい。

ファームはスタッフを「最大限使い倒す」という姿勢で居る。特にコンサルファームは、パートナー自身がその組織のことを長期的に考えていない場合も少なくない。
それなら、スタッフもファームを「最大限使い倒す」という姿勢で臨んだ方が良い。

加えて、自分が今居る位置を客観的に捉えることが非常に重要。

一つは能力的な水準。自分の相対的な強みは何なのか、課題は何なのか。
出来れば組織の関係性とは異なるコーチのような存在が居ると良い。やはり、自分だけではどうしても見えない部分が有るし、自分に「都合の良い」解釈をしがち。

もう一つ、肉体面・精神面での「限界」までの相対的位置。

Twitterで下記のようなことを書いた。

表情や会話などで「危険な状態に入った」ということは分かる。
しかし、これは「危険な状態か否か」だけであって、「危険な状態ではない」時に「危険な状態に入るまであとどれくらいか」は分からない場合も多い。大丈夫だと思っていても、何かのきっかけで突然に来る。

基本的には「危険な状態」はリスクが有るので、通常の状態では避けるべき。
しかし、成長のためには限界ギリギリまで行った方が良いことが有る。「殻を抜け出す」時。

この時に「無茶だ」という水準まで突っ込んでしまう人が多い。一方で、かなり早くに「もう限界までやったから無理」とあきらめる人も居る。

コンサルに限らず、キャリアにおいては勝負のポイントというのが1,2回有ると思っている。前向きな場面も有るし、徳俵に足が掛かった状態の場合も有る。
この場面だけは、イチかバチか、「危険な状態」に片足を突っ込んでの勝負も必要だと思う。

けれども、これは多くてもキャリアを通じて2回程度だと思っている。それ以外はその時ではない。そして、そのような場合でも「限界」は絶対に有る。
そのような状態で自分の身を守るためにも、早いうちに自分の「限界」と、その手前に有る「危険な状態」の位置を知ることが必要だと感じる。

基本的には「危険な状態一歩手前までストレッチする」ことを意識しつつも「勝負のポイント以外では危険な状態に踏み込まない」ということ。そして、「危険な状態に踏み込んでも、絶対に『限界』は超えないこと」
上位者がブレーキを踏んでいるのであればアクセルを踏む。アクセルを踏んでいるのであれば自分でブレーキを踏む。

自分の成長のためにも、自分の身を守るためにも、これらの距離感を掴み、意識することが必要だと感じる。

そして最後に、コンサルという仕事に変に固執しないこと。
「何となく過ごす」ことが出来るような組織になったが故に、変な固執を持つと悲惨な状況に陥る。

覚えておいて欲しいのは、コンサルタントで優秀だから社会人として優れている訳でもなく、コンサルタントで通用しなくても社会人として通用しないわけではない。

単に適性。向き不向き。

向いてないのにしがみ付く人が多いが、向いてないなら早く新しい道に進んだ方が良い。
「向いていない」と言ってくれることも少なくなったので、自分でそこは判断するしかない。

しかし、ろくに努力もせずに「向いてない」と考える人も多い。まずは2年間は死ぬ気でやった方が良い。
限界ギリギリまでやって駄目なら、コンサルなんてものには見切りを付け、早めに新しい道を探した方が良い。

コンサルタントなんてその程度のもの。

いずれにせよ、限界ギリギリまでやったことは、無駄にはならない。

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