非連続的な成長ポイント

先日、twitterで

「育成は上司の役割だから指導等はして貰って当然」という発想は止めた方が良い。本気の育成は凄い負荷が掛かるから、それに値すると判断した相手にしかしない。他は当座の仕事をこなすため(=上司自身が楽をするため)の指導。成長したければ「育成に値する相手である」ことを上司に示すことが必要。

ということを書いた。

この点について、ひょっとしたら「上司の役割を放棄するのか」というように捉える人も居るかも知れない。

「育成」という場合、大きく2つの目的というか種類が有ると思う。

  • 現在の役割を果たすことができるようにするもの
  • 一つ上の役割に引き上げるためのもの

twitterで書いた「育成」というのは後者、一方で「当座の仕事をこなすための指導」というのは前者のことを指して使った。
今回、便宜上、前者を「指導」、後者を「育成」と使い分けることにする。
ちなみに、「育成」は「指導」を内包する。

コンサルタントという仕事の場合、特に「育成」の重要性が高いと感じている。

その理由としては

  • キャリアの中で「非連続的な成長ポイント」が幾つか存在し、「指導」だけでは一つ上の役割に達することが難しい
  • 他業界と違い、その役割で留まって生きる、ということが難しく、一つ上の役割に行く必要が有る

といったことが挙げられる。

この点から、「非連続的な成長ポイント」をどのように乗り越えるのかが重要になる。
順調にキャリアを歩んでいるつもりが、いつのまにかこの非連続的な成長ポイントを越えられず、立ち止まってしまう。
しかも、このポイントは、乗り越えないとはっきりと見えない。乗り越える前には「何かが有る」ような気がすれば良い方で、結構多くの人がこの存在に気付かずない。そういう人はここで成長(=昇進)が止まる。

では、「非連続的な成長ポイント」とはどういうものなのか。

コンサルタントのキャリアの中で特に大きなものは2つで、おおよそ

  • マネジャーへの昇進前後
  • パートナーへの昇進前後

に存在する。これらの非連続的な成長ポイントで「闘い方」を切り替える必要が有る。

良く言われるのは

  • マネジャーになると他人を使って案件を進めなければならない
  • パートナーになると案件を取れるようにならなければならない

といったことであるが、確かに表面的にはこのような違いが有るのだが、本質的にはもっと大きな違いが有ると思っている。

「マネジャーへの昇進前後」といったように「昇進時」ではなく「昇進前後」と書いたのはこれが理由で、本質的に乗り越えられていなくても、表面的に他人を使って案件を進めたり、案件を取れるようになることはできることは有る。

しかし、恐らくそれだけだとそこで限界を迎える。

マネジャー/パートナーに昇進した=このポイントを乗り越えた、というわけではない。

マネジャー昇進前後

スタッフとマネジャーの大きな違いは「見る相手」。スタッフはマネジャーを見て仕事していれば済むが、マネジャーになると顧客を見て仕事をせざるを得ない。
この時、マネジャーは「こうして欲しい」もしくは「これではダメ」ということを表現してくれるが、顧客はそうとは限らない。

「『怖い』という気持ち」の中で書いたことと同様だが、顧客が求めていることや自分達に対する評価などは「感じ取る」ことが必要となる。そして、自分自身で目標水準を規定し、そこに向けて自分自身を追い込んで行かなければならない。

これがスタッフとマネジャーの本質的な違いだと思う。

明確に与えられる目標やゴールを受けて仕事を進めるのか、自分自身が必要となる目標やゴールを定めるのか。

マネジャーになった頃には、まだ、顧客の発言の意図などを読み切れないことが多いと思う。結果として自己満足になっていたりする。

いかに、顧客が求める水準を「感じられる」ようになるか。

そもそも、パートナーが書いた提案書に従い、QCDを全て満たしたアウトプットの取りまとめをする。「作業の指揮者」、これがマネジャーの役割のように勘違いしている人も少なくない。
これだと、「スーパーアソシエイト」に過ぎない。

ちなみに、この「スーパーアソシエイト」という表現は、私がマネジャーになって間もない頃にパートナーからフィードバックを受けた際に使われたもの。この表現の意味する所が良く分かった時に、私は一つ非連続な成長ポイントを越えられたと思っている。

口では「顧客を見ている」と言っているが、最初は表面的に見ているに過ぎない状態。
試行錯誤する中で、気付くと、顧客の心理が何となく見えるようになって来る。この状態になった時に、次の一歩に進めると思う。

パートナー昇進前後

一方でマネジャーとパートナーの本質的な違い。

これは、得られた事実と論理によって導いた結果に対して、もう一つ踏み込んだ「洞察」を加えられるかどうかだと思っている。

コンサルタントは「事実と論理」(「ファクトとロジック」の方がコンサルっぽいか)によって考えを組み立てるのが基本だとは言うが、これはマネジャーまでの「作業者」(丁寧に言えば「分析担当者」)についての話。

戦略コンサルタントは、そこから一つ飛躍させることが必要だと考えている。
例えば抽象化させて、顧客の頭に埋め込むべき新しい思考の枠組みを示す。
例えば深層心理まで組み入れた組織課題の発生メカニズムを示す。

これらを示す際、論理で詰め切ることは難しい。幾つもの解の候補の中から経験則も合わせて「恐らく御社について言えばこう」という解を示す。

それにより、顧客の目から鱗を削り落とす。

提案や最終報告で評価が高まるのは、この「事実と論理から飛躍した解」がバチっと顧客にはまった時だと思う。こうなると、提案が受け入れられるのは当然、顧客との関係性が一段高まり、それ以後で他社と比較されるようなことはまず無い。

そういったことが必要だと思っている。
(但し、この点については私自身が今、試行錯誤している所なので、これが正しいかどうかは分からない)

この2つの非連続的な成長ポイント。

これらは「こういうポイントが有って、こうすれば乗り越えられる」ということを教えることができない。

「マインド」とか「視座」といった類の表現がされるもので、「こういうことが必要」と言われて分かったような気はするが、それだけでは本当の意味の理解にまでは至らない。
本人が試行錯誤しながら道を見つけ出すしかない。

とは言え、道を見つけ出すためのサポートはできる。それが「育成」だと思っている。

「指導」は(それはそれで面倒臭いのだが)、そこまで大変ではない。
成長スピードは人によって異なるし、一言えば十を知る人も居れば、一つ一つ教える必要が有る相手も居る。
とは言え、少なくともコンサルファームに居る人が相手であれば、教えれば少なからず上達し、効果を感じられる。

けれども「育成」は、かなりの根気を要する。

そもそも、非連続的な成長ポイントは誰でも乗り越えられるかと言えば、そうでは無いと思う。どういう表現が適するのか分からないが、ある種の資質が必要だと思う。

加えて、下手すると年単位で同じ状態に留まる。時として、少し後退したような錯覚に陥ることも有る。
(「後退したような錯覚」は、自分が達すべきレベルが見え始めたことにより、今までと同じ状態であっても相対的に下がったように感じるだけで、実際に下がったわけではない。むしろ、見え始めたことが突破に向けた大きな成長で、これを感じるとブレイクスルーは間近)

その間ずっと言い続けることが必要。

これは育成する側もされる側も辛くなる。育成する側は嫌われる覚悟も必要。

そのため、相手を選ぶ。
それだけの負荷をかける価値が有るのかどうか。
無いと判断すれば「指導」に留める。 

なので、成長したいのなら、「育成に値する」ということを自分自身で証明する必要が有る。 

ちなみに、「指導」の内容については、優秀な人は放っておいてもできるようになるが、「育成」の内容はそれがなかなか難しいと思っている。

非連続的な成長ポイントを達するためには、本人の強い意識も必要だが、良いメンターのような人の存在も不可欠だと思っている。 

また、最近は「指導」すらも放棄しているケースが有るようにも感じる。

「与えられたリソースを上手く使いこなすのがマネジメント」というもっともらしいことを言っているのだが、指導もせず、それぞれが「今できること」を組み合わせて案件を回すだけ。

これが横行すると、コンサルファームはその価値を失う、とも思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です