「現実」と「認識」の乖離

戦略コンサルタントとして「現実」と「認識」の乖離についての感度を高めることが重要だと考える。

この仕事の基本は、この乖離を埋めて行くことに他ならない、と。

 

コンサルタントの仕事は「ファクトとロジック」と言われるが、これは一つの側面に過ぎない。戦略コンサルタントの仕事は「戦略を描くこと」に代表されるわけだが、一切の制約を無視して理想論を述べてくれというオーダーであればともかく、通常は様々な制約が存在し、その殆どが人間心理になる。

その時、ファクトとロジックは必要だけれども、それだけでは突破できなくなる。

 

コンサルタントが描く戦略の解については、少なからず顧客の中で既に気付いているもの。示す案で決定的な価値を出せることというのは限定的だと思う。

 

外部者たるコンサルタントが価値を出すポイントは大きく2つ。

  • 固定観念(先入観)」によって見えなくなっている状態を払拭すること
  • 「抵抗感」を払拭すること

 

顧客が「解」に既に気付いているのに、なぜ、そこに向かって動けないのか。

一つ大きいのは、現状を正しく理解しきれていない場合。取り巻く環境や社内の状況が大きく変化しているが、その変化を楽観視している場合など。

もう一つが、人間心理として存在する抵抗感。これも2つ有り、

  • そもそも「変化」すること自体に対する抵抗感
  • 「既得権」を失うという危機感に基づく抵抗感

が邪魔をする。

 

最終的に、これらへの対処方法まで含めて提言をしなければ、戦略の解は何も意味を持たない。

 

ここで重要になるのが「現実」と「認識」の乖離。

 

コンサルが行うべき調査・分析は理屈上、莫大な量になる。

これを全て潰していこうとすると壮大な調査レポートとなり、多くの場合に「よくまとめてくれました」という表面的なお礼の言葉と共に忘れられてしまう。

調査・分析が必要となるのは、カウンターパート(意思決定者)の「認識」と、実際に起こっていること(「現実」)に乖離が有る場合のみ。

 

例えば、「市場は縮小するだろう」という認識の経営者に対して、「市場は縮小します」という現実をファクトとロジックをもって説明しても意味を持たない。しかし、仮に「市場は縮小するだろうが当社の経営に大きな影響は無い」という認識の場合、「市場の縮小で御社の屋台骨が揺らぐ可能性が高い」という現実を示すことができれば、経営者の思考の前提が大きく変わる。

 

優秀なコンサルタントとそうでないコンサルタントの違いは、作業設計に落とし込む段階で、このメリハリを付けられるのかどうか。不要な作業を削り、意味の有る作業にパワーを集中させる。

顧客に対する提案でも、社内での作業設計でも同様。

これが「現実」と「認識」の乖離が重要となる一つ目の理由になる。

 

加えて、「抵抗感」の払拭。

経営層(社長)自身も抵抗感を持つが、これは上記の話で殆どの部分を解決することが可能。しかし、特に部長~課長クラスあたりが大きな「抵抗勢力」になり、変革を邪魔するケースが非常に多い。

 

これは当然と言えば当然で、それまで実績を積み上げ、大きな既得権を得た人達が、わざわざ進んでゼロベースの競争にもう一度取り組もうとは思わないし、年齢的にも50歳過ぎであれば「あと10年」といった「逃げ切り」が視野に入る。

 

「組織のために全体視点で」などというのは綺麗事で、組織というのは個人のエゴの集積でしかない。

その点をしっかりと理解し、対処することができるか。

 

例えば変革に際して人事評価制度を見直すということを多く行うが、「年功主義」から「成果主義」に変えるというような場合、往々にして経営者は

  • 「平均は変わらない」(従業員は「損をした」という意識を持たないはず)
  • 「やればやっただけ評価されれば、モチベーションが高まるはず」

というような認識を持ち易い。

 

これは全体像だけ見ていると一理有るが、現実としてはそうはならない。

 

従業員全員が「平均は変わらないなら良い」という捉え方をするなどということは有り得ず、一人ひとりが自分自身の評価(正確には、それによって得られる報酬)の変化前後を見て物を言い出す。

 

また、経営層にまで達するような「優秀な」人は企業では一部で、「無難に企業人人生を済ませたい」という人の方が多い。そのような人にとって「成果主義」など迷惑でしかない。

結局、経営層が捉えている「認識」(=成果主義によって「モチベーションが上がる」)と従業員が捉えている「現実」(=成果主義は「迷惑」)の乖離が生じる。

逆に、経営層が見ている「現実」(=例えば平均や総人件費を見て「変わらない」)と従業員が捉えている「認識」(=自分の給料は「減らされる」)の乖離も生じる。

 

この乖離は完全に埋まることはないため、あくまでもその乖離を踏まえた対処を行わないと、戦略は実現できない。

これが「現実」と「認識」の乖離が重要となる二つ目の理由になる。

 

「現実」と「認識」の乖離に対する感度を高めるためには、コミュニケーション能力を高めるしかない。

「コミュニケーション能力」と言うと「仲良くなる術」だと勘違いするケースが多いが、本当に重要なのは、相手の心理をしっかりと読み取ること。

 

「現実」と「認識」の乖離を感じ取り、乖離が無い限りは省く。これが重要。

 

プレゼンの際にも、この点を意識すると良いと思う。

相手の表情(特に眼)や手の動き(ペンを走らせたり、ページをめくるタイミングが遅れる 等)も含めて、キーパーソンが何を感じているのかをしっかりと捉えること。

プレゼンの間に手持ちの資料を見る時間と相手の表情を見る時間、これを少なくとも3:7(できれば1:9)位にはする必要があると思っている。

そして、乖離が有る部分を捉える、乖離が有ると思っていたけど実は無い部分は説明を省略する・・・といったコントロールをする。

「現実」と「認識」の乖離に対する感度が高まるほど、プレゼン能力も同時に高まるはず。

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