組織管理と人材管理

私は一応「戦略コンサル」と自称しているが、手元に有る案件の結構な比率が組織や人材系のテーマになっている。
(とは言え、マーケティングやファイナンスなどの案件も色々と抱えているので「組織・人事コンサル」と自称するのも憚られるし、その領域だけに特化した場合には、その世界の本当の専門家には太刀打ちできないので、便宜上やはりこの自称を使い続けるつもり)

最近に限った話ではないが、人材管理系のテーマが話題に上がることは多い。企業において人材管理は非常に大きなテーマであることに加えて、「人」を対象とした話には正解は無く、どのような手法を採っても利点と裏腹に弊害が必ず存在するので、次々に新しい概念が生み出されるのだと思う。

ただ、最近の人材管理系のテーマを眺めていると、何だか片手落ちという感じを受ける。少し言い換えると、理想論や性善説に立って考えれば確かにそうなのだが、それだけ取り組むと組織として成り立たない、というような感覚。
従業員のやる気主体性を尊重する、多様性を活かす、ワークライフバランスを重視する・・・云々。確かに一つ一つは間違っていないのだが、非常に安直な印象と言うか、違和感を覚えることが多い。

違和感を覚える理由は

  • 人(正確には属性)の「多様性」を散々唱える一方で、企業や業務の特性、人の性格といったものを一律に捉えすぎている印象が有る
  • 「組織を構成している意味」が軽視されているように感じる

といった点だろうか。

例えばジョブ型人事制度という考え方の話。この考え方は非常に合理的だと思っているし、自分自身で人材管理体系の再構築の支援をする際にこの考え方を踏まえることも多い。一方で、この考え方はかなりのデメリットというかリスクを孕んでいると思っている。
報酬水準の課題などを是正するといった短期的視点に立てば良いかも知れないが、長期的に見ると経営側が従業員を統制する上での足枷になる危険性も高い。

また、リモートワークの話。基本的に私のチームでは「若手はオフィスでの勤務を推奨」と明言しているし、「原則リモートワーク」という人は採用していない。勿論、効率の面からリモートの方が良い日にはリモートワークで良い(私自身も集中的にインプットをする日や、締め切りが迫って作業に集中する日などは自宅で作業する)し、案件の合間などは自宅でのんびりしていれば良い。あくまでも原則として。
これに対して人材エージェントから「他社も遠隔在住を認めているし、時流を踏まえて御社も導入すべきだ」という意見を受けたのだが、その「他社」が組織としての強さを持っているとは思えない。

ワークライフバランスについては・・・割愛というか自制する。

「組織管理」と「人材管理」という2つの言葉。本来は同じゴールだと思うのだが、ニュアンスとして異なる性質を持っている。同じゴールに対して異なるアプローチを指示していると思っている。
前者は統制・調整、後者は動機付けなどといった意味合いが大きいように私は捉えている。

最近は「人材管理」に重きが置かれ過ぎていて、特に「統制」というものが軽視されているように思える。「統制」という言葉が悪のように捉えられているというか。
経営側に立つ人というのは社会の中で非常に限定的で、大半は謂わば「労働者」に位置する。その「労働者」発想で「居心地/聞き心地が良い考え方」が拡散され、「ほら、社会全体がこういった考え方じゃないか」ということで持て囃される。

そこに「人事コンサル」の人も乗っている。ビジネスという割り切りの中で「このテーマは儲かる」という思考で乗っていることは(「コンサル」と称して良いかどうかは別として)悪くないと思う。
問題は、本気で「居心地/聞き心地が良い考え方」が企業にとってもベストだと信じ、提言する人が居るということ。正確には、弊害などをしっかりと考えずに「こういったものがトレンドなので導入すべき」という短絡的な提言をする人。

経営の観点で、「組織管理」と「人材管理」は常にバランスを持って捉えるべきだと思う。
しかし、後者は環境や従業員の世代(価値観)の変化によってトレンドが結構頻繁に変わり、前者は比較的理論が固まっている。それが故に後者に意識が傾斜しがち。

考える順序は先に「組織管理」で、それを踏まえた「人材管理」。「人材管理」を見直す際にはもう片輪の「組織管理」についても意識を払う。
自社の運営でも顧客に対する提言でも、ここは気を付けるべきだと私は感じる。

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