「専門家」となるための要件

先日書いた下記の記事に絡むこと。

takashi-kogure.hatenablog.com

 

色々と書いたが、若手のうちに転じることを考えると、正直、どの道を進んでも大差無いとは思っている。

3年や5年程度コンサルファームで勤務したとしても、本当の意味での経営や戦略に関する知見を得られるとは思えない。あくまでも座学の延長程度。優秀であり、かつ、意識が高い人であれば、どの業界出身でもPEファンドに転じて数年内には埋められる程度の差。

逆に、優秀で意識が高い若手コンサルであれば、財務に関する差も遠からず埋められると思う。

どの道であっても、数年程度の経験というのはその程度の差。

 

そうすると、次のキャリアに進んだ際に前職での経験を活かすためには、どの程度の時間が必要なのか。

 

これは、「専門家」と評価されるための要件になると思う。

結局、その位の評価にならない限り、その道での経験というのは、他社との競争上の必要条件を全て満たした上での差別化要素にはなるが、それだけで意味の有る「武器」にはならないと考えている。

(参考:「コンサルタントの競争における前提要素と差別化要素」

 

では、「専門家」となるためには何が必要なのか。

 

まず、アカデミックな側面に関しての「専門性」については、Ph.Dを取ることが自他共に「専門家」と認める要件だと思う。

例えば情報技術やライフサイエンスなどの学位を持っているということは、少なくともビジネスの世界ではそれだけで「専門家」として称するに値するものであり、明確な武器になると思う。

(この人達がアカデミックの世界で生きるとすれば、全く話は違うだろうが)

この人達は取り敢えず別の話。

 

実務の世界での「専門家」は、一つは「10,000時間」といったような時間を尺度として語られることが有るが、これは一面としては正しく、一方で誤っていると思う。

まず、時間を掛けないと話にならないのは確か。10,000時間が正しいのか否かは別として、相当の時間を割くことが必要だと思う。

しかし、この時間を単に実務一辺倒で過ごしても「専門家」とは言えないと思う。実務と理論、両面から攻めることが必要だと思う。

そもそも、仮に実務で10,000時間を掛ければ「専門家」になれるのだとすると、1日8時間、年220日勤務と仮定すれば、5年半程度で達する。

実際、企業での勤務の中では無関係な業務も多いが、精々10年間。

「専門家」をどの程度の水準を持って称するか、ということに依るが、「Specialist」であれば分かるが、「Expert」とは言えないと思う。

 

あくまでも一つのイメージとしてだが、博士後期課程の3年間、仮に1日8時間×220日として5,000時間超。司法試験の合格のために必要な時間も最低5,000時間以上というような話を聞いたことが有るが、一つの目安としてこの位は少なくとも、理論習得に充てていることが必要だと感じる。

その上で10,000時間程度の実務が掛け合わされば、それなりに行くような気がしている。

 

理論5,000時間+実務10,000時間。経験獲得と、その体系化。

時間的な面ではこの位は要件になるのではないかと感じる。

 

とは言え、時間をかければ誰でも「専門家」になれるというわけではないと思う。

時間を掛けた鍛錬に加えて(もしくはその前段で)必要となるのは、「その道で勝負する」という「覚悟」だと感じている。

 

コンサルタントを長年務めていて、ファーム内で色々な人を見て来ている。その中で、同じような経験年数、実績を積んでいる人でも、「経営(正確には経営支援)の専門家」と感じる人とそうでない人に分かれる。

この違いは、一つにはコンサルタントという仕事への向き合い方に依る。特にシニアなマネジャー以上になった後に「コンサルタント」と捉えるのか「セールスパーソン」と捉えるのか。どっちが良い悪いではなく、「専門家」になるためには前者の意識が少なからず必要。

それに加えて、本当に「コンサルタント」として勝負する覚悟を決めているかどうか。これが決定的な差に繋がっていると感じる。

 

「その道で勝負する」と覚悟を決めて初めて、「専門家」に向けた扉が開くと感じている。それまでは、「Specialist」にはなれても「Expert」にはなれない。

 

「専門」の捉え方は色々と有るが、それを「ビジネスの世界で闘う上で依って立つ武器」と捉えるのであれば、何らかの「専門」を持つ必要が有ると思う。

そのためには、どの道(軸)で闘うのかを定め、覚悟を決めることが不可欠。

 

キャリアの上では、まずはこの軸を定めることを意識する必要が有ると思う。

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