抽象化の粒度を見極め、適切なメタファーを用いる

顧客に対して自分の考えをまとめて提言する際に重要なのは、どの程度の粒度に抽象化して伝えるのか、という見極めだと考えている。

 

提言内容を考える上では、かなり具体的なイメージまで思考を落とし込むことが必要だが、そのまま顧客に伝えても、相手が理解しきれないことが多くなると思う。

相手の性格や、そのテーマに関する理解度や関与度によっても変わって来るので一概には言えないが、具体的なイメージまで落とし込んだものをしっかりと伝える、というスタンスで臨むと、枝葉末節は伝わったが本質が伝わっていない、ということも生じ易い。

 

そのために抽象化が必要。

抽象化の際には、無駄な情報を排除する一方で、本質を失わないレベルに粒度を保つことが必要。

正確に伝えることも重要だが、正確性に拘ると分かり辛くなる。一方で、抽象化し過ぎると、単に薄っぺらいて提言になる危険性が有る。

粒度をどの程度にするのか、その上で何を残すのか。この見極め。

 

その上で重要なのが、その示し方。

抽象化する際には、伝えたいことを損なわず、かつ、冗長にならないような「フレーズ」に落とし込むのが良いと思う。

抽象化は、一歩間違えると意図に反した伝わり方となる。

そのような状態に陥らないためにも、フレーズの核となり、提言の本質を端的に表すキーワードを見出すこと。これが勝負の大きなポイントだと思っている。

 

プロジェクトの提言は

  • モヤモヤとしている顧客の頭の中をスッキリと整理する
  • 顧客の思考方法を切り替える

という2つの種類が有ると思う。

 

いずれの場合でも、適切な隠喩(メタファー)を見付け出すことが非常に有効だと感じている。そして後者の場合には、更にそれを象徴的な対比として用いることが必要だと思う。

相手にそのメタファーを伝えるのか、あくまでも自分の考えを整理するために用いるのか。それは時と場合による。伝えることで相手にとっては逆に分かり辛くなるケースなども有る。

しかし、適切なメタファーを用いると思考はかなりスムーズに流れると思う。仮に伝えなくても、メタファーを用いて自分自身の頭を整理できれば、自分の口から出て来る言葉は以前よりもすっきりすると思う。

 

以前、ある顧客に、聞き方によってはかなり失礼なメタファーを用いて「あなた達は〇〇です」と言い切ったことが有る。

〇〇に入るのは10人居たら9人は嫌うのではないかと感じるような食べ物。しかし、残りの1人は病みつきになる。

私の中で、この会社を表現するのはこの言葉しかないと思った。

この会社は「みんなに好かれる会社」を目指すような戦略を取っていたが、これにより強みを失ってしまっている。そのため、「あなた達は〇〇です」という表現により、戦略を考える上での前提認識を正す(矯正する)ことが必要だと思い用いた。

 

この時は、この食べ物でなければダメだった。

特徴がその会社の特性に合っていないといけないし、100人中1人に好かれるのではダメ。10人中1人位には好かれる。しかも、パッと聞いて分からないといけない。

この際には、まずは「好き嫌いがはっきりと分かれる」ということを伝えたかったので、それを何で表現すれば良いのかと考え、食べ物での表現を考えた。その上で、伝えたい特性を食べ物に対する表現で置き換えると何なのか。そのようなことを考えていたような覚えがある。

 

 

抽象化した際に良く使われる(し私も使う)表現として「個人戦団体戦」といったものも有る。これは、この状態だと抽象度が粗すぎる場合が多い。(それでもこの表現を使うのは、団体戦という意識すら皆無な場合が多いからだが)

そのため、仮に団体戦だとしても、それが例えばサッカーなのか野球なのか。これもメタファー。

 

例えば「野球からサッカー」というのは一つの対比として特徴的な変化を表現できる。もしくは、「あなた達が闘っているのは野球ではなくサッカー」だと、モヤモヤを整理する際に使える。

これは、分業が明確な野球とそうでないサッカー、ということを伝えることもできるし、特定の国でのみ普及している(言ってみるとローカルな)野球と世界の隅々まで浸透しているサッカーということも同様。

また、サッカーの中でも「小学生のサッカーとプロのサッカー」や「イタリアのサッカーとスペインのサッカー」といったような対比などにより、「同じゲームに見えるが違う」といったことを伝えることも可能。

 

野球とサッカーのような違いなのか、サッカーの中での違いなのか。サッカーの中の違いとしたら何が違うのか。

適切なメタファーを用いるためにも、具体的に考え抜いた提言内容を抽象化させ、要するに何なのか/何が違うのか、これを研ぎ澄ますことが非常に重要。

これにより用いられたメタファー自体も相手の理解を促すし、メタファーを探す過程が自身の思考の解像度を引き上げ、説得力を高めると思う。

 

なお、メタファーの選択肢を増やすことも重要。これは感度が高い状態で様々なことに接すること。

これもコンサルタントにとっては大切な肥やしだと思う。

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