コンサルタントに長期の休暇が必要な理由

先日、Twitterで書いたことについて。

若手コンサルタントにとって長期の休暇は不可欠なものだと私は考えている。

長期の休暇が必要なのは、下記のような理由から。

  • 次のプロジェクトにおいて全力集中するため
  • それまでに得た知識の整理と、新たな知識のインプットのため
  • 知的刺激を感じる余裕を持つため

まずは、その次のプロジェクトにおいて全力集中することは言わずもがな。

労働基準法においては1ヶ月単位で労働時間に強い制約が掛かっているが、コンサルタントの仕事の性質を考えると実態として難しいことも有る。
プロジェクトは3ヶ月単位となることが多く、その間は(本来は)労働時間で測るのではなくアウトプットで測ることが必要であり、結果として労働時間が法規制を守れないことも生じ得ないと思っている。

また、特に若手のうちは成長のためにも、圧倒的な量を経験した方が良いし、もしも時間的な余裕が有るのであれば一つの上のポジションにトライする、ということをやった方が良い。

そもそも、数学者や理論物理学者と同じで、紙と鉛筆さえ有れば、むしろそれらも無くても「考える」という生業は成り立つ。そのため、プロジェクトに本気で向き合っていれば、「仕事中」以外も臨戦態勢になっていると思う。

気が休まる間がないが、とにかく徹底的に働く。
その方が良い。

その代わり、年単位でワークライフバランスを取ることは必ず意識すること。
就業日一日あたりの勤務時間は致し方ない部分は有るが、年間休日数は120日強を取ることを意識した方が良い。
そして、プロジェクト中の休みは上述の通り、少なくとも頭は休まらない。そのため、プロジェクト後にまとめて休みを取る必要が有ると思う。

知識の整理とインプットについて。

幾度かブログ内で書いているような気がするが、プロジェクト内で蓄積される知識や経験は、そのままではあまり価値が無い。

一度抽象化する。それを蓄積する。

この蓄積量を如何に増やすのか。これがコンサルタントの成長において最も重要なポイントだと思う。
そのためにも、抽象化するための時間は不可欠。

プロジェクトが終わり、まだその新鮮な記憶が残っているうちに、振り返りを行う。
例えば関連する書籍(古典が良い)を読み、理論に照らし合わせる。
タイムマシンでキックオフ前に戻ってもう一度同じプロジェクトが出来るとしたら、どのように進め、何を述べるのか。

このようなことをじっくりと考えると良い。

しかし、こんなことは次のプロジェクトが始まってしまったらできない。また、終わった翌日にこんなことを考えたくないと思う。まずは終わったプロジェクトのことを頭から捨てて、ゆっくりしたいと思う。

加えて、コンサルタントは知識の蓄積だけでは勝負が出来ない。常に新しいインプットが必要。
これはコンサルタントという仕事の性質に依るものなのだが、意識的に纏まったインプットをしないと価値が劣化する。
パートナーで言えば、「セールスパーソン」として勝負するのであれば別なのだが、「コンサルタント」として勝負するなら、かなりこの点は意識しないといけない。

パートナーになる前であれば更に必要性は高いかも知れない。
戦略コンサルタントは専門性で勝負するのではなく。総合力で勝負するものと考えている。
しかし、「専門性で勝負するのではなく」とは言っても、世間水準のそのような言葉とは異なる次元での知識が求められる。

そのため、知識の穴を埋めて行くことが必要。専門書を何冊も買い込み、一気に習得する。
しかし、これも、プロジェクトの合間の短い時間にやる気は起きない。

結局、まとまった休暇が無いと、このようなことに時間を充てるのは難しい。

そして、知的刺激を感じる余裕を持つという点。

コンサルタントは投資銀行やPEファンドなどと比較して語られることが多いが、この中で、長期休暇を取る必要性を感じるのはコンサルタントだけ。
(尤も、コンサル以外の2業界で働いた経験は無いので、正確なことは言えないが)

コンサルタントと他2業界の決定的な違いは、インセンティブの在りかだと思っている。

コンサルタントは経済的なメリットが非常に小さい。「報酬」をインセンティブとして働くと、かなり早い段階で辞めると思う。
非常に優秀なスタッフが、凄いハードワークをする。

しかし、それによって得られる報酬は決して高いとは言えない。
確かに前述の2業界以外と比べればかなり高い水準には有るのだが、居る人材の質や労働量を踏まえると「割に合わない」。

また、単に「報酬」をインセンティブとするなら、前述2業界に転じた方が良い。そこでも十分に通用する能力とタフネスを兼ね備えた人材が揃っている。

そうすると、コンサルタントは何をインセンティブに働くのか。

それが「知的刺激」だと感じている。

この点、よく「コンサルタントは知的好奇心が満たされる」と言われ、その通りではあるのだが、この点についてかなり浅いというか薄っぺらい認識になっていると思っている。

「知的好奇心」を「知らなかったものを知ることが出来る」というような認識に留まっていることが多い。新しい業界を知る、など。

このレベルであれば、コンサルでなくても良いと思う。むしろ、銀行などの方がより広い/数多い世界を見ることが出来ると思う。

コンサルタントにおいて得られるのは、広さではなく深さ。

色々なことを知ることが出来るというのも確かに有るが、それ以上に、深遠な部分の理解が非常に刺激的。
競争のメカニズム、組織のメカニズム等々。考えを深く掘り進める中で、当初は見えなかったものが見えて来る。

その過程は非常に苦しい。
「分からない」という言葉以外、出て来ない。

しかし、様々な角度から眺める、色々と分解してみる。
そのようなことを進める中で、ある時、何か「カチャ」っと音がするような感じで、全てが組み上がることが有る。

これが病みつきになる位に快感・・・。

結局、途轍もなく難しく、かつ、理屈だけでは太刀打ちできない人間模様も含めて様々な問題・パズルを解くこと。
このようなコンサルタントという仕事の真髄こそが、コンサルタントにとってのインセンティブだし、これをインセンティブと捉えることが出来ない人は、どこかでこの仕事が「辛いだけのもの」になると思う。

しかし、このような知的な刺激は、とにかく極限まで自分を追い込むことで初めて感じられること。肉体的にも精神的にも追い込まれた中で喰らい付く。

プロジェクト中、如何に自分を追い込めるか。

そのための準備が必要というのが、コンサルタントにとって長期の休暇が必要と感じる最後の理由。

なお、このような理由のため、長期の休暇を「与える」という意識は「優秀なスタッフ」(正確には「期待しているスタッフ」)に限って考えている。
能力が有り、成長を追求する意識が有り、かつ、時間を与えることで成長に向けた自己研鑽(休息や旅も含めて)を行うと感じる人のみ。

コンサルタントという仕事を追求しようとせずに「サラリーマン」的な意識のスタッフにこのようなものを与える必要は無い。
そのような意識のスタッフに対しては、こちらも収益の極大化のために稼働率を引き上げることを考える。

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