先日、他の人が提案プレゼンするのを横で聞く機会が有った。
それを聞いていて感じたのは「これは全くダメだ」ということ。ロジカルに、かつ、熱く語っているし、提案内容も理屈的には至極妥当なもの。
しかし、検討する対象にもならない。
何がダメだったのか。
それは、前提がそもそもかみ合っていない。
提案は「今のままでは長期的にはじり貧なので、貴社が活かし切れていない圧倒的な強みを活かすためのM&Aなどをやりましょう」といったようなもの。(詳しくは書けないので「ようなもの」と捉えて頂きたい)
提案する側の前提は「成長する」、正確に言えば「株主価値を高める」ことを目指しているということ。
しかし相手(経営者)は、規模の観点にせよ株主価値の観点にせよ、「成長させたい」という意識が「全く」無い、と感じた。
「経営者は会社を成長させようと思っている」
戦略コンサルタントの仕事でも、このことを「前提」としてしまっている人は多いように感じる。なのでここから全てが始まる。「成長するための課題は・・・」と。
しかし、この前提は必ずしも正しくない。
勿論、IRなどの場で「私達は成長を目指していないです」などと言い切る経営者は、まず居ないと思う。特に上場企業の場合には。
しかし、本心を見ると、必ずしも成長や株主価値の向上など、目指していないということは珍しくない。
なぜ、そのようなことが起こるのか。
簡単に言えば「守り」に入っているから。
このようなことはオーナー経営者であってもサラリーマン経営者であっても起こり得る。
オーナー経営者については、創業者でこのようなケースは少ないように思う。
上場もしくはそれに準ずるような規模にまで一代で築き上げた人なので、安住することの危険も感じているのかも知れない。
しかし2代目以降は必ずしもそうとは限らない。
資産運用の世界で、本当の資産家は「殖やそう」とは思っていない場合が殆ど。あくまでも「次の世代に受け継ぐ(守る)」という意識が強い。そのため投機的な運用をする人は少ない。株式運用も「殖やそう」ではなく、インフレ等を視野に入れた保有になる。
これと同じで、「成長する」よりも「受け継ぐ」に意識が行くケースも多い。
(とは言え、勿論個々の経営者で性質は異なり、特に2代目は「親への対抗心」から極端に成長を追求するケースも少なくない)
「老舗」と呼ばれるような企業ほど、この傾向は強まるように感じる。
一方でサラリーマン経営者。
こちらの方が厄介なケースが多い。
オーナー経営者は、幾ら「守り」とは言え、長期的視点での危機感が有れば「守り一辺倒ではダメだ」という思考に繋がり易い。
しかし、サラリーマン経営者は本当に「守り」、より正確に言えば「逃げ切り」に入るケースが少なくない。長期的なリスクを感じても、「『自分が』逃げ切り」さえできれば良い。
むしろ、変に自分が何か手を打って失敗することのリスクを気にする。
何らかの施策を取って失敗した際、「仮に施策を取らなかった場合の結果」は見えない。あくまでも「施策を取って失敗した」という事実だけが残る。
しかも、施策を取らなかった場合「環境要因(不可抗力)」という言い訳ができるが、施策を取った場合には明確に責任が生じる(目に見える)。
これを避ける人は少なくない。
今回のパターンがまさにこれ。相手の経営者は「あと〇年」と周りにも常々言っていると聞く。そのような人に「今のままでは『10年後が』危ないです」と言っても何も響かない。
一所懸命に「説得」するものの全く響かず、「何でこの状況で危機感を持たないのかな・・・」とぼやく人が居るが、それは前提が違うという場合が多い。
極端に言えば、「縮小均衡でも良い、潰れさえしなければ」と本気で考えている経営者も少なくない。
株主価値なのか企業価値なのか、もしくは売上なのか、企業を測る尺度は色々と有る。
この尺度が何なのかを確認することは、戦略コンサルタントに限らず、それを志望する学生でも癖付いていると思う。採用の際のケース課題でも、前提として「何を目指すのか」を意識し、確認もしくは定義することは当然のこと。
しかし、いずれの尺度にせよ「成長させる」ことを前提に話を始めてしまう場合が殆どだと思う。
実際の企業を相手にする場合、ここに「経営者の心理」を絡めることが必要。
確かに教科書論的には「会社を成長させる(少なくとも持続させる)」ことは「当然」のこと。しかし、「会社(法人)」に実体は無く、あくまでも経営者の心理によって動く。
他人を見ていて「なぜ、成長意欲が無いのか」と感じる人も居れば、逆から見ると「なんでそんなに成長を目指すのか」と感じる人も居る。
人間の価値観は多様。このことを認識しているのに、企業を見た時にその認識が失われるケースが多い。
この経営者の心理に考えを巡らせないと、最後まで話は噛み合わない。