「過去の成果物」で得るべきもの

コンサルタントとしての経験を積むに連れ、顧客から伺う断片的な話から、全体としてどのような症状が生じているのかが読み取れるようになって来る。
話を聞き進める中で、「この会社のパターンと同じ」という過去の顧客等とイメージが繋がる。それにより、「御社の中ではこういうことが起こっているのでは?」という投げかけが出来るようになる。

「まるで、うちの会社にスパイとして入り込んで内情を捉えたようですね」と言われることも多い。

これがコンサルタントの大きな武器だと思う。

顧客は「うちの会社は特殊でしょ」ということを言ってくるが、非常に多くの企業の内情を見て来た立場から言えば「そんなに特殊じゃない」ということが殆ど。
むしろ「いや、よく有るパターンですよ」となる。

このような「パターン」をどのように積み上げて行くのか。

基本的には自分が担当した案件によって積み上がるものが一番大きいのは当然。
案件を「しゃぶり尽くす」ことで、個々の人の集合体である企業という「生き物」がどのようなメカニズムで動いているのか。そういったことが感覚的に身に付いてくる。

とは言え、担当した案件でしか積み上がらないとすると、成長スピードとしては限界が有る。

そこで必要になって来るのが、過去の成果物を漁ること。そしてそれ以上に、それを担当した人の話を聞くことが重要になって来る。

「過去の成果物を見ろ」ということは、恐らく必ず言われることだと思う。

そもそもだが、「過去の成果物を見ろ」と言われて、貪るように読み漁るといった行動をしっかりと取っている人は限定的だと思う。感覚的だが、せいぜい10人に1人。
大概は、多少は見るけど、精々が数本。
(口では「成長したい」と言っているが、アドバイスされたことすらやらない)

まず、これだと成長には繋がらない。

とは言え、しっかりと見ている人も、非常に表面的なものに留まっていると感じる。

過去の成果物を漁る時に、多くは

  • メッセージの内容と論理(ストーリー)展開
  • スライドの構造・デザイン

といった所に意識が行っているケースが多いと思う。

確かに、アナリストレベルで見るのであればそれでも良いと思うが、アソシエイト以上で成果物を読み込むのだとすると、これだけでは勿体無いというか、あまり価値は無い。

コンサルタントが示すメッセージは、かなりの前提を置いた上での限定的な答えとなっているはず。
一般論で語るコンサルタントの提言に意味は無いので、一般論から固有解に落とす際、顧客が置かれた状況、風土や特性、価値観等を前提として置き、その前提に従って考えられ、メッセージに落とし込まれている。

この前提の部分は、細かくは報告書に記されていないケースが多いと思う。
それは、顧客にとっては至極当然なことであり、改めて報告書の中で記載されているとノイズになることが多いため。

意思決定上で非常に重要な要素となる場合には明示するが、それ以外は「所与のもの」といった扱いになる。

しかし、コンサルタントとしての(疑似)経験値を積む上では、この前提の部分が非常に重要な意味を持つ。
そして、報告書にこれらが記載が無いとすれば、それは、担当したコンサルタントに聞くしかない。

また、表面的に出て来るアウトプットは確かに重要。最終的にどのような結論になっているのか。そこに至る思考プロセスはどのようになっているのか。

しかし、成果物に記されている思考プロセスは、ゴール(メッセージ)から逆算されて必要なもののみ。スタートから歩み始め、途中で棄却された思考プロセスは示されていない。

確かに、提言書たる報告書としてはそれらの棄却された思考プロセスは必要無いが、コンサルタントの成長のためには、「なぜ、その棄却された方向性ではダメだったのか」ということが意味を持つ。

「このメッセージになった理由」を理解することも重要だが、それ以上に、「なぜ、考え得る他の方向性ではダメだったのか」を理解する方が、企業のメカニズムに対する洞察力を高める上では有効だと思う。

過去の成果物を漁る上では

  • 他のオプションではダメな理由
  • その前提となっている企業の状況、風土・特性、価値観等

ということを特に意識すると良いと思う。

調査主眼のプロジェクトであったり、「高級文房具」としての価値を訴求するプロジェクトだけをやるのであれば、このようなことは必要無いと思う。

しかし、戦略コンサルタントとして生きて行くのであれば、このような行動の積み上げは不可欠。

まずは成果物を徹底的に読み込み、その上で、担当したパートナーに直撃するのが良いと思う。
それが「過去の成果物」の活かし方。

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